『精読』の具体例② PEG修飾化リポソーム

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こんにちは。

誰のためなのかも分からないまま、今日もノートをさらしますよってに。ちゃんとまとめたら公開したくなるのは性格なのでしょうかね。前回の、『精読』の具体例を紹介します。 を読んでドラッグデリバリーシステムというものに興味持ちましたって方がいると嬉しいです。

今回取り上げる論文 :『PEG修飾化リポソームの展開』

PDF8ページの短い論文です。リンクからダウンロードできますし、先日『フリーの学会誌の活用法』で紹介した J-STAGE からも検索可能です。

前回スマホのカメラ撮影による目によろしくない写真だったことを反省して、今回はスキャンしてみました。ちょっとだけ見やすくなってますとともに、読みにくい字が紙面全体に展開されております。

簡単にこの論文のまとめをしてみます。

 

PEG修飾化リポソームとは?

まず、”PEG修飾化リポソーム” というモノから説明します。PEGというのはポリエチレングリコールという水に溶けやすい(混ざりやすい)人工高分子のことです。ここでは簡単に、水と相性の良い材料と覚えて下さい。リポソームというのはリン脂質二重層からなる球状微粒子(内部は空洞)のことですが、数十ナノメートル~数マイクロメートルという目に見えない大きさのボール型の入れ物をイメージしていただければ大丈夫です。そしてPEG修飾化リポソームというのは、つまり、水と相性の良い材料で覆われたボール型の入れ物のことです。

なにに使う?

この論文は、いわゆる3大疾病のうちのひとつ、”がん” に関係します。がんと聞くと抗がん剤など薬そのものを思い浮かべると思いますが、この論文では、体の中のがんを攻撃する薬について書いているのではなく、その薬を効率的にがんへと届けるための “入れ物” について書いています。いくら薬の性能が優れていても、その薬がちゃんとがんのある場所まで届かないことには意味がありません。そのためこの “入れ物” は、がんを治療する薬の開発においてとても重要な役割を果たすのです。

どんなモノ?

さて、論文が取り扱うモノの正体が分かったところで、詳しい内容に入っていきましょう。すごく長くなる予感がするので、短めでいきます。

この論文をひとことで表すと、あらゆる面において優秀なバランスの良い ”入れ物” を作りましたよという報告です。ここでバランスと書きましたが、薬をがん組織へとちゃんと届けて治療するというのは、非常に難しいミッションなのです。人間の体の中というのはとても複雑で、そうやすやすと薬としての仕事をさせてはもらえません。薬とその入れ物にはいろいろな性能が求められているのですが、1つの性能を劇的に上げるともう1つの性能がどーんと落ちてしまうなど、ちょうど良いバランスを取るのがとても難しいものなのです。つぎに、薬の “入れ物” が必要とするスペックを挙げてみます。

  1. 血中滞留性が良いこと(体内をめぐる血液中にどれだけ長い間薬が存在できるか)
  2. 細網内皮系による捕捉を回避する能力(肝臓などによる異物取り込みを回避すること)
  3. 腫瘍集積性が良いこと(腫瘍=がんに薬を届けてその場に留まらせ作用させること)
  4. 抗腫瘍効果が良いこと(腫瘍=がんに対して有効な治療効果を有していること)

ほかにも、製造のしやすさ、体内での安定性、アレルギー反応を起こさないか、など条件はたくさんありますが、“入れ物” としての代表的なスペックは上に上げた4つです。体の中にある特定のがん組織へと薬を届けるためには、全身の大小さまざまな血管を通る必要があり、そこで問題になるのがどれだけ長い間血液中に存在できるかです。それと関連するのが、体内の異物取り込み機構を避ける能力です。肝臓はアルコールを分解する機能を持つことで有名ですが、体内に入ってきた異物をこし取り体の外へ排出する機能も受け持っています。

ここでやっと論文の本題、”PEG修飾化リポソーム” の出番です。最初に説明したとおり、水と相性の良い材料で覆われたボール型の入れ物でしたね。その入れ物のなかに薬を入れて使います。さて、水と相性が良いことがなんの役に立つというのか?水との相性は、上に上げた1と2、つまり血液中に長く留まり異物として排出されないことと直接関係してきます。水と相性が良いということは、水を近づけて取り込むことができるということです。その結果入れ物は水の薄い膜をまとうこととなり、この水のバリアのおかげで体内の異物取り込み機構に発見され難くなります。ちょうどレーダーを避けるステルス戦闘機が持つステルス機能のようなものです。

論文の主旨

お待たせしました(すいません)。上で長々と説明したのは論文の主旨の前提条件となります。ここからが論文の主旨、つまり研究結果の説明です。もう少しお付き合いください。

PEG修飾化リポソームはこれまで多く開発されてきました。理論的には、PEG分子の大きさ(分子量)をどんどん大きくしていけば、取り込まれる水の膜厚も増加しより性能が上がるはずなのですが、実物はそう簡単なものではありません。ある分子量以上になるとPEG分子そのもの形状に変化が生じ膜厚の成長が突然鈍くなるのです。ちから技での開発には限界があるということです。

そこで、研究者は2種類の異なる形状(分子量も異なる)のPEG分子を併用して最も効率的で厚い膜を達成しようと試みました。分子量を細かく調整しながらいくつか作成した結果、最も良い組み合わせのバランスを発見するにいたりました。少し端折りましたが、机上の空論では発見し得ない事実が実験によって解明されています。

ほかにも、リポソームへの結合性能を最適化するために構造をいじったり(アンカー部の化学組成を変える)、製造コストや製造容易性を考慮して工夫を重ねたり(高分子材料の必要量を減らしたり効率的な構造にしたり)、さまざまな研究がなされています。

あらら、簡単に説明するつもりが意外と長々となってしまいました。よくあることですね。。これ以上はくどいので、もし興味があるようでしたら↓↓のノートものぞいてみてください。論文などの資料を読むとき、文字や表だけを読んで分かったと思っていても、案外あいまいな理解のまま終わっているケースがほとんどです。一度書いてある文章を分解して、自分の言葉に置き換えて整理し直してみて初めて理解できるものだと思います。そして、いったんそのように理解した物事は記憶に強く定着します

かくいう僕も、論文全体の流れはつかめたものの、まだ分からないところが残っています。知れば知るほど分からなくなる、知の迷路には終わりがないのですね。

 

論文 :『PEG修飾化リポソームの展開』

 

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