『精読』の具体例を紹介します。

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前回の投稿、『多読』の失敗と、専門分野 において、
『多読』とはどうゆうこと?『精読』とはどうゆうこと? そして、大量に読むだけじゃ何も身につかなかったという体験談について書きました。

今回は引き続いて、「じゃあ、『精読』ってどうやんのさ!?」ってことについて具体的に書いてみたいと思います。ちょうど今勉強を深めているDDS(ドラッグデリバリーシステム)に関する論文を取り上げてみます。自分の勉強にもなるしブログのネタにもなるしで一石二鳥です。(ブログで公開するとなると、いつもより『本当に理解しているのか?』についてシビアになりますしね。そしてハードルを自分でイマ上げたことに気付く。)

 

今回取り上げる論文 :『医薬品開発のためのPEG材料設計』

PDF7ページの短い論文です。リンクからダウンロードできますし、先日『フリーの学会誌の活用法』で紹介した J-STAGE からも検索可能です。

ではでは、どうぞ~
ノートの写真はクリックすると拡大されます(PC上)

先ず、1ページ目に論文冒頭の抄録(まとめ部分)があります。ここでは、論文で取り扱うモノや方法などを簡単にまとめています。おおまかにどんな内容が書かれているのかをざっくり理解します。

なんとなく分かったことは、こんな感じです。

① 医薬品開発にはPEG化というものがある
② PEG化のメリットは3つある

  • PEG化により薬剤の分子量が大きくなると、薬剤の腎排出(体外排出)が抑制される
  • PEG化により、薬剤が酵素によって分解されるのを防ぐことができる
  • PEG化により、元々溶けない薬剤が溶けるようになる

そして、PEG化製剤 で検索すると、役に立つ薬の情報 DDS(ドラッグデリバリーシステム)のページがヒットしました。そのページを読むと、PEG化により薬物の分子量が大きくなると、病気ではない正常細胞には入り込まないけど、”がん” などの異常細胞には入り込むことが分かります(正常細胞付近の血管の壁はしっかりびっしり並んで薬を通さないけど、がん細胞付近の血管の壁はボロボロになっていて穴ぽこなので大きな薬を通す)。また、<ERP効果>という新しい言葉も発見しました。

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“EPR効果” で検索して用語の確認をします。また、EPR効果の英語である、”Enhanced Permeability and Retention effect” でも、google検索して画像に切り替えてみました。すると、さきほどのページで確認した内容を説明した分かりやすいイラストを発見できました。なので、これもノートに貼っておきます。

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次、論文の3ページ目。PEGの分子設計についてです。

なんとなく分かったことは、こんな感じです。

  1. PEG分子の結合箇所は、タンパク質のアミノ基(NHなど)部分やチオール基(SH)部分である。
  2. 直鎖状(まっすぐ1本)のPEGばかりをタンパク質にくっつけると、タンパク質の活性が低くなる。<問題点>
  3. 大きな分子量のPEGを使うと、肝臓に集積してしまう。<問題点>

⇒ その問題点を解決するため、分岐型のPEG分子が開発された。

そこでノートには、PEG分子の結合方法と、タンパク質にPEG分子をくっつける際の化学的なプロセスを、理解できている範囲でまとめました。*一部途中の反応プロセスが分からなかったので、黄色い付箋を貼って疑問点を残して保留にしました(この部分は、また他の勉強で理解した後、ノートをぱらぱらめくって気付いたら書き足すことにします)。

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ノートの次のページには、自分の理解が曖昧な用語などを検索して資料を貼り付けました。また少しだけ内容がかするウェブページもヒットしたのでノート左ページに参考として貼り付けます(化学美術館 メルマガ)。

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論文の3ページ後半~4ページ前半。PEG分子設計のもう1つの例についてです。

何となく分かったことは、こんな感じです。

  1. システイン(アミノ酸の1種)(アミノ酸はタンパク質の1種)のPEG化の例である。
  2. システイン中のチオール基は、通常ジスルフィド結合(S-S)を形成している。
  3. PEG化システインを作成する際の化学反応が図に示されている。

ノート右側には、新しい用語の解説(システイン)と、チオールとジスルフィド結合の資料を貼り付けました。

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論文中の “スルホメチル基” というのが分からなかったので、これも黄色い付箋を貼って保留にしておきます。

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論文4ページ目の後半~5ページ目前半。

何となく分かったことは、こんな感じです。

  1. 論文執筆者は、PEG末端にグルタルアルデヒド構造を有するPEG試薬を開発した。
  2. エステル結合を用いたPEG化技術(体内においてエステラーゼ(分解酵素)がPEGを脱離させるというシステム)がある。
  3. ジスルフィド結合やベンジルカーバメート結合を用いたPEG化技術がある。

ここでも、新しい用語を検索し、資料を貼り付けます。グルタルアルデヒドというものは、殺菌消毒薬としても使用されているし、バイオ系の実験に用いる固定液として使用されているということが分かります。また、論文中に紹介されているPEG化技術における結合様式(エステル結合、ジスルフィド結合、ベンジルカーバメート結合)を自分で理解しながら書き込みます。

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論文の5ページ目後半。

何となく分かったことは、こんな感じです。

  1. PEGは、異なる分子同士を結合させるためのリンカーである。
  2. リンカーの両末端に異なる分子を結合させるためのリンカーは、ヘテロ二官能性のPEG化試薬である。

論文中の図に、PEG部分と両端の分子部分とを理解しながらマーカーで分けます。また、新しい用語 “リンカー” を検索し、資料を貼り付けます。資料によると、”リンカー” と “スペーサー” は同じ機能を果たすけれども微妙に異なるようです。スペーサーの方が少し長いみたい。でも資料の文脈によっては、同じものとして扱う可能性もあるので、その程度に覚えておきます。

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論文の5ページ目後半の続き~7ページ目(最終)まで。

何となく分かったことは、こんな感じです。

  1. 低分子のPEGは酸化されて有毒な代謝物になる。
  2. PEG化試薬の製造プロセスで生じる副生成物の毒性も問題(エチレンオキサイド、ホルムアルデヒドなど)である。
  3. PEGの免疫原性にも問題がある。

ノートには、新しく知った用語 “免疫原性” について調べた資料を貼り付けます。免疫に関係する抗原と抗体についても資料を貼り付けます。

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抗原と抗体についてよくまとまったウェブページがあったので、カラーコピーしてそのまま貼り付けます。(役に立つ薬学の情報 抗原と抗体)抗原と抗体の分かりやすい説明のほかに、抗原への接触回数が増えるほど免疫応答が強まることも分かります。また、”感作” というキーワードがあり、アレルギー反応が生じるまでのプロセスも理解することができます。

 

以上で、7ページの論文を使ったノート作成は終了です。お疲れ様でした。

今回、『精読』の具体例(僕個人による1つの方法)について解説しました。僕は今回<ノート>を活用して勉強しましたが、印刷した資料の端っこに書き込みをするなど、皆さんが一番しっくりきてやりやすい方法で試してみると良いと思います。

全く知らない分野を新しく勉強し始める時は、どうしても、その分野の世界が果てしなく広く感じるものです。「知らない」という状態はとても不安なものです。自分がいったいどこにいるのかも分からなくなります。その不安感を解消させるために、アレもコレもと一度に手をつけてしまいます。過去の僕がそうでした。手をつけることは決して悪いことではありません。しかし、例えばあなたには、たった1週間(1年としてもよい)の勉強時間しかないとすると、「アレ」や「コレ」やにそれぞれ費やす時間が相対的にとても短くなっていきます。短いということは、最悪読んだだけ = 目の運動をしただけ になってしまいかねません。

自分の勉強法を振り返ってみて、「あ~自分にもあてはまるな」とちょっとだけ思ったそこのあなた。文字通りだまされたと思って、僕のノート作成法を一度なぞってみて下さい。ぜんぜんやったことがない場合は、とても時間がかかると思います。でも時間がかかるのは最初だけです。少しずつ慣れてスピードアップしますから。

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